2004年(平成16年)、ユネスコ世界遺産に「紀伊山地の霊場と参詣道」が文化遺産として登録されました。霊場と参詣道が総合的に登録されたこの世界遺産について、詳しくご案内します。
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道(きいさんちのれいじょうとさんけいみち)」の構成資産は、 3つの霊場とそこへ繋がる参詣道で、和歌山県・奈良県・三重県にまたがる広範囲が登録対象となっているため、観光で訪れる場合には1日ですべてを回り切る のは難しく、複数日にわたる余裕を持ったスケジュールで訪れることが推奨されています。
なお、世界遺産の構成資産になっているのは国宝4件、重要文化財23件です。ここでは登録資産に含まれる3つの霊場と、参詣道について詳しくご紹介していきます。
紀伊山地の霊場と参詣道 公式サイト
https://www.pref.wakayama.lg.jp/sekaiisan/
この世界遺産について知るためには、まず「山岳信仰」と、そこから発展した「修験道」を知る必要があります。
「山岳信仰」とは、山には神様が住んでいると考えたり、山そのものを神聖な場所として捉えたりして信仰する、自然信仰のひとつです。
信仰の対象となる山は、噴火などで周囲に災害をもたらす恐ろしい火山であったり、水源として恵みをもたらす山であったり、地域によって様々ですが、日本では古くからこうした山岳信仰が行なわれていたと伝えられています。
こうした山を対象とする自然信仰が各地で行なわれているなか、やがて日本に仏教が伝来します。仏教では、世界の中心に聖なる山「須弥山(しゅみせん)」があるとされ、山に対する畏敬の念が含まれていました。
この山に対する偶然とも言える共通点がやがて結びつき、呪術者である役小角(えんのおづぬ)によって「修験道(しゅげんどう)」が生み出されます。

「修験道」とは、登山という行為そのものが修行であるとするもので、険しい山道を登り切ることで身と心が磨かれると考えるものです。古くから畏敬を集めていた山々は、仏教伝来を経ても変わらず信仰の対象であり続けたというわけです。
吉野・大峰

なお、吉野山は桜、及び雪の名勝地としても知られており、多くの歌人に題材として愛されてきました。
吉野山観光協会 公式サイト
http://www.yoshinoyama-sakura.jp/
熊野三山

熊野本宮大社 公式サイト
http://www.hongutaisha.jp/
熊野速玉大社 公式サイト
http://kumanohayatama.jp/
熊野那智大社 公式サイト
http://www.kumanonachitaisha.or.jp/
高野山
「高野山(こうやさん)」とは、和歌山県伊都郡高野町にある標高1,000m前後の山中に、弘法大師空海が修業の場として開いた高野山真言宗の聖地です。
山中にある金剛峯寺(こんごうぶじ)を中心に、和歌山県伊都郡かつらぎ町にある丹生都比売神社(にふつひめじんじゃ)、和歌山県伊都郡九度山町にある慈尊院(じそんいん)、丹生官省符神社(にうかんしょうふじんじゃ)も世界遺産の構成資産に含まれています。

金剛峯寺公式サイト
https://www.koyasan.or.jp/
ここまでに紹介した3つの霊場へ向かうために使われ続けている参詣道も、世界遺産の重要な構成資産です。
熊野参詣道

熊野三山に通じる参詣道の総称として使われているのが「熊野参詣道(くまのさんけいみち)」または「熊野古道(くまのこどう)」です。内訳としては「紀伊路(きいじ)」、「小辺路(こへち)」、「中辺路(なかへち)」、「大辺路(おおへち)」、「伊勢路(いせち)」の5つのルートがあります。
高野山と熊野三山とを繋ぐ約44kmの小辺路や、伊勢神宮と熊野三山を繋ぐ約55kmにも及ぶ伊勢路など、三重県、奈良県、和歌山県、大阪府からそれぞれ入ることができ、いずれも熊野三山に繋がっています。
大峰奥駈道
大峰奥駈道(おおみねおくがけみち)は、ユネスコ世界遺産を構成するふたつの霊場、吉野と熊野を繋ぐ修行の道で、世界遺産に登録されている参詣道の中で最も険しい道だとされています。
大峰奥駈道の北端に吉野があり、南端に熊野三山があります。熊野三山から吉野へ向かうルートは「順峯(じゅんぷ)」、逆に吉野から熊野三山へ向かうルートは「逆峯(ぎゃくふ)」と呼ばれています。

なお、どちらからのルートも修験者の修行の道として現在に至るまで使われ続けていますが、江戸時代以降には北から南へ進む逆峰が正式なルートとされています。
ルートは連なっている山々の山頂を網羅するように開かれており、山上ヶ岳、大普賢岳、八経ヶ岳、釈迦ヶ岳、玉置山を通ります。最も高い八経ヶ岳が標高1,915m、最も低い玉置山でも標高1,076mという高地を歩くことになります。
高野山町石道

「高野山町石道(こうやさんちょういしみち)」は、高野山の表参道で、和歌山県伊都郡九度山町にある慈尊院をスタート地点とする約24kmの道です。
この道には、高野山までの距離の目安として「町石(ちょういし)」が置かれています。町石は一町(約109m)を基準に一定間隔で置かれている石柱です。
また、36町(これを「一里」と言います)ごとに「里石(りいし)」が置かれており、参道を歩く人々が距離を測る目安にしていました。巡礼で登る人々は、ひとつひとつの町石に手を合わせながら登ったと伝えられています。
現在では整備が進んでおり、トレッキングコースとしても知られています。
この世界遺産では、参詣道が世界遺産に登録されていますが、このように道が世界遺産に登録された例としては、スペイン北部にある「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」があります。
こちらはキリスト教の聖地を訪れるための巡礼路で、人々はフランス各地から主要な4つの道を歩いてピレネー山脈を経由し、この巡礼路を歩きました。
和歌山県とスペイン・ガリシア州は、世界遺産に登録されている2つの古道を「姉妹道」として提携しています。