山梨県
恵林寺庭園
- 寺社・寺院庭園
- 中世/安土桃山
山梨県甲州市にある「恵林寺庭園」は、「夢窓疎石」(むそうそせき)によって造られた庭園です。日本で最初の造園家として名前が挙がるのが、夢窓疎石。鎌倉時代の禅僧でもあり、のちに世界遺産となるような庭園をいくつも手掛けました。「恵林寺」の一番奥にあるこの庭園には、いったいどのような特色があるのでしょうか。恵林寺庭園の構造と様式、歴史、関連する大名、おすすめの季節、そして禅僧が手掛けた庭園だからこそ見られる禅の精神についてご紹介します。


恵林寺庭園の施設概要
山梨県甲州市にある恵林寺庭園は、臨済宗妙心寺派の乾徳山恵林寺の奥深くに造られました。
禅の精神で造られた庭園

恵林寺は臨済宗妙心寺派の由緒あるお寺です。1330年(元徳2年)に、甲斐牧ノ庄(かいまきのしょう)の地頭職(じとうしょく:領主)をつとめていた「二階堂出羽守貞藤」(にかいどうでわのかみさだふじ)が、「夢窓国師」(無窓疎石:むそうこくし)を招いて作庭しました。7回も歴代天皇から国師号を賜り、権力に翻弄されながらも仏教的な慈悲と和合の道を説き続けた夢窓国師の庭は、自分の心を見つめ磨き、浄化して、凄絶孤高の高みに導くための禅の精神で造られています。
静寂に包まれた庭園
恵林寺庭園は恵林寺の入り口である黒門から四脚門、三門を通過した本堂のさらに、奥にあります。武田信玄公墓所と柳沢吉保公墓所、柳沢吉保公霊廟に隣接しており、静寂に包まれた雰囲気が特徴です。恵林寺庭園は池泉鑑賞式の日本庭園で、高くなっている奥側が枯山水、手前側が池泉庭園の構造。枯山水と池泉庭園を同時に鑑賞できるため、静けさのなかにも確実に動きを感じることができます。
甲府八景のひとつ、「恵林晩鐘」(えりんばんしょう)

恵林寺庭園は、国指定名勝・史跡に指定されています。さらに、甲府藩主だった「柳沢吉保」(やなぎさわよしやす)が「近江八景」(おうみはっけい:現在の滋賀県)にならい、山梨県内で選んだ、8ヵ所の名勝地「甲府八景」(こうふはっけい)のひとつに選ばれていることでも有名です。
柳沢吉保は、京都の8人の公卿に、八景の情景ごとに和歌を作るよう依頼しており、恵林寺庭園は「外山前中納言光額卿」が和歌を作りました。「静かなる夕の鐘の声聞きてみれば心の池もにごらず」という和歌に詠われた、夕暮れに鐘が聞こえる情景は、自然の姿を庭園に再現して森羅万象を見ようとする「禅観一味」(ぜんかんいちみ:すべてが平等であること)そのものです。
恵林寺庭園に関連する大名・武将
武田信玄と快川和尚
鎌倉時代に作庭された恵林寺庭園は、戦国時代に入って「武田信玄」が師と仰いだ美濃(現在の岐阜県南部)の「快川和尚」(かいせんおしょう)が住職となりました。その後1564年(永禄7年)には、武田信玄自ら恵林寺の領地を寄進して、恵林寺を菩提寺と定めたのです。武田信玄が亡きあと、その息子である「武田勝頼」は、快川和尚のもとで父の盛大な葬儀を行っています。
しかしその6年後、武田勝頼が敗れて武田家は滅亡しました。織田信長による恵林寺焼き討ちの際に、快川国師は「安禅必ずしも山水を須(もち)いず、心頭滅却すれば火も自(おのずか)ら涼し」という有名な世辞を残して、多くの僧侶達と共に炎に包まれたのです。
柳沢吉保
江戸時代に入り、恵林寺は徳川家康の手により復興。甲斐武田氏の家臣の末裔であった柳沢吉保は、5代目将軍「徳川綱吉」に重用され、21歳の若さで小納戸役(こなんどやく:江戸幕府の役職、将軍近侍職)を命じられました。その後、甲府藩主となったことで恵林寺は発展します。さらに自身と恵林寺にゆかりのある、高家武田家の創設にも尽力。1706年(宝永3年)には、大老格まで上りつめました。
恵林寺庭園の特徴・様式
恵林寺庭園は、書院で坐禅をする際に心を静めることを目的として設計された庭園とも考えられています。現在は木々が成長して見えませんが、造園当時は乾徳山(けんとくさん)を借景した庭でした。
枯山水と池泉庭園を同時に楽しめる池泉鑑賞式庭園

恵林寺庭園は、平安時代後期から鎌倉時代に多く造られた、書院などから眺めることができる池泉鑑賞式の日本庭園。高くなっている奥側が枯山水、手前側が池泉庭園という構造は、枯山水と池泉庭園を同時に鑑賞できる点に特徴があります。なお、本堂から進むと左手に見える枯山水式の庭園は「方丈庭園」と呼ばれています。
縁側から眺める庭は石組や雌雄の滝、力強い緑の木々で構成され、縁側の位置によって表情が変わるので見飽きません。庭園を観察することで自然と乱れた心を静めることができる造りになっています。
あの世とこの世の境目を示す「心字池」(しんじいけ)
恵林寺庭園の池は、「心」という字をかたどった「心字池」です。心字池は、あの世とこの世の境を表しており、池を渡ることにより「彼岸」に至ることをイメージ。池水は人間の俗悪を清めるとされる神聖な笛吹川(ふえふきがわ)の清水を引き込んでおり、渡りにくい太鼓橋が架けられています。これは、彼岸には容易には到達できないことを示すためです。
恵林寺庭園の見どころ
700年の歴史がある恵林寺庭園では、鎌倉時代へ来たかのような、静寂な時間を過ごすことができます。
心字池
庭園を観賞するのであれば、池泉に架かる屋根付きの亭橋「渡橋」から見るのがおすすめ。また、少し離れて渡橋越しに眺めるのも趣があります。心字池の滝石組・中島・出島は直線上の配置にあり、鎌倉時代の特色を踏襲。庭園の地割りは、作庭されたころのままであることが推測されています。中島の護岸石組は丸みを帯びた亀島のようでもあるため、滝石組のある築山を鶴石組と見立てると、鶴と亀が向かい合うようになる趣向もひとつの見どころです。
坐禅会
土日になると、本堂で坐禅会や「勅賜護法常應録」(ちょくしごほうじょうおうろく:柳沢吉保が作成した禅録)を使った講座が開催されます。「作務」(さむ:労働修行)体験会として「掃除会」、「茶礼会」(されいかい)などが開催されることもあり、どなたでも参加可能です。自分自身と向き合うことが目的のため、初心者でも構いません。
枝垂れ桜
恵林寺庭園には大きな枝垂れ桜があり、桜の季節には花弁が池に浮かび、紅葉の季節には枝垂れ桜の枝が幻想的な風景を醸し出します。恵林寺の入り口から恵林寺庭園までの経路も見どころです。
恵林寺庭園の施設情報
恵林寺庭園の施設情報についてまとめました。
フリックによる横スライド仕様となります。
施設名 | 恵林寺庭園(えりんじていえん) |
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所在地 | 〒404-0053 山梨県甲州市塩山小屋敷2280 |
アクセス | JR中央線「塩山駅」よりバス乗車、バス停「恵林寺」下車 |
開園時間 | 8時30分~16時30分 |
休園日 | 年中無休※宝物館は12~3月、木曜閉館 |
料 金 | 大人:500円、小中高生:300円※団体割引あり※宝物館は別料金 |