福井県
養浩館庭園
- 大名庭園
- 城郭庭園/福井城
- 近世/江戸
「養浩館庭園」(ようこうかんていえん:福井県福井市)は、趣向を凝らした水の造形が印象的な庭園です。江戸時代、福井藩主であった松平家の別邸として、「福井城」(福井県福井市)からほど近い場所に作庭されました。敷地の中央に大きな池が造られており、周囲に配置された屋敷や花木、工夫された地形の変化を歩きながら楽しめる回遊式林泉庭園(かいゆうしきりんせんていえん)のひとつです。この美しい養浩館庭園の歴史や特徴、関係する城や大名についてご紹介します。


養浩館庭園の施設概要
国の名勝にも指定されている養浩館庭園

養浩館庭園は、素晴らしい水の造形や、建造当時の状態が維持されていることなどが評価され、1982年(昭和57年)に国の史跡名勝天然記念物に指定されました。
1945年(昭和20年)の福井空襲により、庭園内の貴重な建物は焼失していましたが、名勝の登録をきっかけに発掘や文献による調査を開始。建造当時の姿を復元する作業が行われ、1996年(平成8年)に一般公開が始まり、現在に至っています。
歴代の福井藩主達が愛した藩邸
養浩館庭園の建造時期と伝えられるのは、第3代福井藩主「松平忠昌」(まつだいらただまさ)の時代。藩の居城であった福井城から北東に位置する場所に造られました。「御泉水屋敷」(おせんすいやしき)と呼ばれ、藩の別邸として側室の出産や宴が行われたとの記録が残っています。
元禄年間に、7代藩主「松平昌明」(まつだいらまさあき)が養浩館庭園を現在の姿に近い形に整えたとされ、その後敷地や屋敷を拡充してこの地で隠居生活を送りました。
明治維新後、第16代藩主「松平春嶽」(まつだいらしゅんがく)が御泉水屋敷を「養浩館」と命名。松平家の迎賓館のような役割も果たし、専門家によって建物や庭園の価値が改めて評価されることとなりました。
養浩館庭園に関連する城・武将
幾重にも巡らされた壮大な堀を持つ福井城

福井城は、「徳川家康」の次男「結城秀康」が手がけた城です。場所は、戦国時代に「柴田勝家」が築城した「北ノ庄城」(きたのしょうじょう)があった地。北ノ庄城は1583年(天正11年)の「北ノ庄城の戦い」において、柴田勝家が自害した際に焼失しました。その後、1600年(慶長5年)に結城秀康が「関ヶ原の戦い」の褒賞として北ノ庄68万石に封じられ、福井の領主となったのです。1601年(慶長6年)から約6年の歳月をかけて、壮大な4層5重の天守や何重もの堀を持つ新しい城が建設されました。
本丸と二の丸は、徳川家康による縄張りとの説があり、全国の大名が工事にあたったとも言われています。
1669年(寛文9年)の大火によって天守や屋敷が消失。その後再建されることなく明治維新を迎えましたが、城址や残った石垣は雄大な城の名残を留めています。また、2008年(平成20年)には、福井城西側にかかる「御廊下橋」、2018年(平成30年)には、本丸西側を守る「山里口御門」(やまざとぐちごもん)が復元整備されました。
福井城の見どころ
石垣

福井城の石垣は、福井市内で採石した「笏谷石」(しゃくだにいし)が使われています。笏谷石は青みがかっていて、水に濡れると深い青色に変わるという点が魅力。天守や城門などの瓦も、一部を除いてこの笏谷石を使っていたと考えられています。
また、福井城石垣の積み方は「布積」(ぬのづみ)。布積は継ぎ目が水平に並ぶようにした方法です。工法は場所によって異なり、堀に面した場所には「打込接ぎ」(うちこみはぎ:石に多少の加工をして積み上げる手法、石同士の隙間が少ない)、天守台や瓦御門周辺には「切込接ぎ」(きりこみはぎ:石の接合面を徹底的に加工して積み上げる手法、石と石の間の隙間がない)が使用されています。
なお、福井市役所庁舎では、二の丸にあったと推測される石材を展示。築城工事にかかわったグループごとに違う「刻印」を確かめられます。
福の井

天守台近くにある「福の井」は、結城秀康が福井城を築く前からあったと伝わる歴史ある井戸。「福井」の由来は、この福の井だと言われています。
福井城における特別な井戸と推測されている福の井ですが、1948年(昭和23年)の福井地震で形が大きく歪み、井戸枠が作り変えられました。また、2017年(平成29年)には、石積みや井戸枠を福井地震前の大きさに復元。さらに、屋根や釣瓶などを設けた他、給水設備の整備も行われており、より井戸水に親しむことができます。
養浩館庭園の創建者であり、「福井」の名付け親とされる松平忠昌
養浩館庭園の創建者は、第3代福井藩主であった松平忠昌と伝えられています。松平忠昌は、福井城の初代城主となった結城秀康の次男。つまり徳川家康の孫に当たります。御泉水屋敷と呼ばれた敷地の庭園には、北ノ庄の城下町を支えた「芝原上水」(しばはらじょうすい)が引かれ、水を巧みに利用して庭園が設計されました。
また松平忠昌は、当時の地名であった「北ノ庄」や「北ノ庄城」を改名したと伝えられる人物です。「北」の字が戦いの敗北を連想させるとして「福居」に改名。さらにその後「福井」と改められました。一説には古くからこの地にあった「福の井」と呼ばれた井戸の名にちなんだとも言われています。
7代藩主松平昌明の時代には、敷地を拡大して新たに屋敷も追加されました。松平昌明の死後、敷地は初期の広さに戻されましたが、様々な饗応(きょうおう:酒や食事を出して人をもてなすこと)や松平家の休養地として長く用いられたのです。
養浩館庭園の特徴・様式
水辺と建物の一体感が美しい回遊式林泉庭園
大きな池を中央に据え、散策や四季の風景を楽しむことができる養浩館庭園は、回遊式林泉庭園のひとつです。九頭竜川から採取し、城下町の上水道として整備されていた芝原上水からの水を利用。その美しい水が池や庭園のせせらぎを一層引き立て、養浩館庭園の見事な水の造形を実現しているのです。
庭園の建造や管理のために藩が作成したとされる史料「御泉水指図」が現存。作庭当時の姿が多く残されていることが証明されており、江戸時代の面影を感じられる庭園と言えます。
史料をもとに再建された数寄屋造りの邸宅
松平家の別邸として長い間利用されてきた屋敷は、1945年(昭和20年)の福井空襲によって焼失しました。
しかし、養浩館庭園が国の史跡名勝天然記念物に指定されたのち、史料や写真をもとに復元作業を実施。美しい数寄屋造りの建物が再現され、江戸時代の様子を伝えてくれます。
復元にあたっては、調査・発掘した遺構の上に再建する手法により、水辺からの距離感や高さまでが精巧に再現されました。歴代藩主が眺めた池や木々の風景に近い景色を目の前に、養浩館庭園の特徴である水辺と屋敷の一体感を味わうことができます。
養浩館庭園の見どころ
壮大な水の造形と自然物の融合する空間

養浩館庭園の見どころは、何と言っても隅々まで工夫の凝らされた水の造形です。中央に大きな池を配置して、木々や屋敷が水面に美しく映り込む効果を演出。さらに、出島や岬のような岸辺や、砂利を用いた汀(なぎさ・みぎわ:水際)など、細やかな作庭が行われ、水の流れが生き生きと感じられる庭園となっています。
石橋や飛石に使用されている福井県内外の名石は、見どころのひとつ。苔むした自然石の様子や、飛石の美しい色合いを楽しみながら、園内を散策することができます。
約2,300㎡にもなる池の南側には、数寄屋造りの邸宅が南北に長く広がり、様々な方角から庭を眺めることが可能。すぐ目の前に広がる水の流れや、額縁で切り取られた名画のような風景など、住む人、見る人の眼差しを計算し尽くした建築となっています。特に、屋敷の南端に造られた「御月見ノ間」からの眺めは、養浩館庭園を代表する景色として必見です。
このようにして、水を自在に操る作庭と、自然物や建物を効果的に設えた意匠が見事に融合。江戸時代の技術の高さを改めて感じることができます。
庭園を幻想的に映し出すライトアップイベント
太陽のもとで輝く水辺の風景も美しい養浩館庭園ですが、ライトアップされた夜の庭もまた格別です。春は約300個もの行灯が灯され、秋には水面や見頃の紅葉が光に浮かび上がって幻想的。
閉館時間も延長されるので、普段の装いとは異なる養浩館庭園の風情をゆったり楽しむことができます。
藩主の心持ちを想像できるお茶席体験
養浩館庭園では、四季折々の風景を眺めながら茶道体験をすることができます。南側の水辺に張り出すように造られた御月見ノ間で味わえるお茶席では、美しい水の流れや自然石の石橋などを鑑賞することが可能。部屋にゆったり座って、螺鈿細工(らでんさいく:主に漆器や帯などの伝統工芸に用いられる装飾技法のひとつ)や窓の趣向などをじっくり眺めてみると、当時の歴代藩主の心持ちを想像できるでしょう。
また、夏限定の茶会や初釜など、季節ごとの風物詩とも言える各種茶会も開催。お菓子やお茶を頂きながら、江戸時代に思いを馳せるひとときを過ごしてみるのはいかがでしょう。
お茶席体験や季節の茶会の開催状況については、事前の確認がおすすめです。
養浩館庭園の施設情報
養浩館庭園の施設情報についてまとめました。
フリックによる横スライド仕様となります。
施設名 | 養浩館庭園(ようこうかんていえん) |
---|---|
所在地 | 〒910-0004 福井県福井市宝永3丁目11-36 |
アクセス | JR「福井駅」から、福井県庁(福井城本丸跡)の中を通り抜けると、約15分で到着 |
開園時間 | 9時〜19時 (入園は18時30分まで) 11月6日~翌年2月末日:9時~17時(入園は16時30分まで) |
休園日 | 年末年始(12月28日〜翌年1月4日) |
料 金 | 【養浩館庭園のみ】 一般:220円、団体(20名以上):160円、中学生以下無料【福井市立郷土歴史博物館との共通券)】 一般:350円、団体(20名以上):260円、中学生以下無料※家庭の日(毎月第3日曜日)、文化の日(11月3日)、ふるさとの日(2月7日)は、無料公開日 |