岩手県
毛越寺庭園
- 寺社・寺院庭園
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「毛越寺庭園」(もうつうじていえん)は、岩手県西磐井郡平泉町にある「毛越寺」(もうつうじ)の境内に広がる庭園です。毛越寺は、平安時代後期に栄華を誇った「奥州藤原氏」(おうしゅうふじわらし)ゆかりの寺院。鎌倉時代の歴史書である「吾妻鏡」(あずまかがみ)に、「霊場荘厳吾朝無双」と記されました。意味は、「寺院の立派であること国内に並ぶもの無し」。この記事では、日本古来の文化を伝え続けている毛越寺庭園の歴史や見どころをご紹介します。


毛越寺庭園の施設概要
毛越寺庭園は国指定名勝であり世界遺産

毛越寺庭園は1959年(昭和34年)国指定の特別名勝と特別史跡に二重登録されました。文化財保護法により保護される名勝の中でも、特別名勝は景観の美しさに加え学術的な価値が高い場所。さらに、日本文化の象徴であり国宝級の価値があるとされるのが特別史跡です。平安時代末期の美意識をありのままで伝える毛越寺庭園は、日本だけではなく世界の人々にとっても価値のある場所となりました。2011年(平成23年)に、「平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-」を構成する要素としてユネスコ世界遺産に登録。「浄土思想の理想と、庭園・水・周辺景観の結びつきに関する日本古来の概念との融合を例証している」と高く評価されたのです。
毛越寺と毛越寺庭園の歴史
毛越寺は、850年(嘉祥3年)に「慈覚大師円仁」(じかくたいしえんにん)が開山したと伝えられています。1150年(久安6年)頃、陸奥国(現在の福島県、宮城県、岩手県と青森県)の豪族だった奥州藤原氏二代「藤原基衡」(ふじわらのもとひら)が再興し、毛越寺の造営を開始しました。藤原基衡は持ちうる財力を投じ、境内に金堂円隆寺(こんどうえんりゅうじ)を建立。仏師「雲慶」(うんけい)作の薬師如来像を本尊とする豪華絢爛な建物だったと伝わっています。
早世した藤原基衡に代わり、奥州藤原氏三代「藤原秀衡」(ふじわらのひでひら)は先代の思いを受け継ぎ、毛越寺境内に多くの僧坊を建立しました。吾妻鑑には、全盛期の堂塔の数が40、僧侶が生活する僧坊が500棟を超えていたという記述が残っています。
奥州藤原氏にとって、寺院造営には大きな意味がありました。毛越寺を復興させた藤原基衡の父、奥州藤原氏初代「藤原清衡」(ふじわらのきよひら)は、戦乱が絶えなかった奥州を仏教の力で鎮めたいと考え、仏の住む平和な世界を理想に街づくりを推進。毛越寺と共に世界遺産として登録されている「中尊寺」(ちゅうそんじ:岩手県西磐井郡平泉町)を建立しました。中尊寺には極楽浄土をイメージした金色堂があり、奥州藤原氏4代が眠っています。2代目の藤原基衡は父の理想を受け継いで毛越寺を再興させ、中尊寺を上回る規模に造営。仏がいる場所「浄土」を現世に表現しようとしました。造営当時の寺院の本殿や周囲の建物はすべて失われてしまいましたが、庭園は奇跡的に造営当時と変わらない姿で残存。栄華を極めた奥州藤原氏の理想を後世に伝えています。
毛越寺庭園の特徴・様式

毛越寺庭園は、平安時代後期に多く造られた「浄土式庭園」形式です。平安時代後期、死後に極楽浄土へ行けるよう願う「浄土信仰」が、貴族はじめ庶民の間へも広く流布。多くの寺院が境内に浄土を模した庭園を造り、表現するようになりました。毛越寺庭園の特徴を3点紹介します。
浄土式庭園の様式である、仏堂と池を組み合わせた配置
毛越寺の場合、最盛期に本尊が安置されていた金堂円隆寺の前に「大泉が池」が広がります。庭園は塔山と呼ばれる山を借景として、広々とした極楽浄土を表現。人工的に山や川の流れを造る「枯山水」風の築山(つきやま)や中島があります。
平安時代中期に記されたとされる「作庭記」に忠実
作庭記(さくていき)は日本で最も古い造園秘伝書です。平安時代の造園について詳細に記録され、現代にも写本は残されていますが原本や作者は不明。毛越寺庭園では、作庭記が作成された時代の思想や技法を、ありのままの姿で体感することができます。
平安時代の建物の遺構が多く残っている
建物の基盤となる礎石(そせき)が敷地内の様々な場所に残存。全盛期をしのばせる貴重な文化遺産としての一面もあります。残された礎石から、発掘調査を経て造営当時の状態が明らかになっています。
毛越寺庭園の見どころ
日本古来の作庭技法が光る大泉が池の景観
大泉が池の東南岸にある「出島石組」は、水辺から池の中へ突き出すように岩を並べ置いて出島に見立てた作庭技法。緩急のある風景を作り出しています。荒磯風(ありそふう:水際に並べ置いた岩を、波の荒い海岸と見立てること)の出島の先には、約2mの景石を絶妙な傾斜状態で配置。「池中立石」(いけなかたていし)とよばれる毛越寺庭園のシンボル的な景観で、大泉が池には古来の作庭技術が余すところなく用いられています。荒々しさを感じさせる出島と築山に対し、広々とした洲浜(すはま:水辺に石を敷き詰め、砂浜を表す手法)は優美な姿。池を臨む場所により、異なる表情を見ることができるのです。
季節を感じるまつりに参加しよう
毛越寺では様々なまつりや行事が開かれます。
ここでは、花の名前を冠するまつりを紹介しましょう。
毛越寺あやめまつり(6月20日~7月10日)
大泉が池のほとりに約30haの花菖蒲(はなしょうぶ)園があります。6月中旬~7月中旬の1ヵ月の間、300種3万株が開花。この季節ならではの青々とした庭園風景をより鮮やかに演出します。まつり期間中は、国指定重要無形民俗文化財である「延年の舞」公演などを開催。隣接する開山堂では写生・写仏会があり、参加すると限定の御朱印がもらえます。
萩まつり(9月15日~30日)
秋を代表する花といえば萩。「万葉集」にも登場し、古くから愛されている植物です。毛越寺の境内に植えられているのは「シロバナハギ」、「ヤマハギ」、そして宮城県の県花である「ミヤギノハギ」の3種類で、合計約500株。萩まつり開催中は「延年の舞」公演や茶会、邦楽演奏会などのイベントが行われます。
平安時代を感じる曲水の宴
大泉が池の東北側にある、細く曲がった水路。「遣水」(やりみず)と呼ばれ、「作庭記」にも記述があり、毛越寺庭園には平安時代の遺構が残っています。当時の貴族は、この遣水を使って「曲水の宴」(ごくすいのえん)を行っていました。遣水に盃を浮かべ、自分の前に流れ着く前に和歌を詠み、流れてきた盃に入った酒を飲む遊び。毛越寺では、毎年5月第4日曜に開催しています。平安貴族さながらの装束を身にまとった歌人達を見て、雅な平安時代の雰囲気を感じ取れるイベントです。
毛越寺庭園の施設情報
毛越寺庭園の施設情報についてまとめました。
フリックによる横スライド仕様となります。
施設名 | 毛越寺庭園(もうつうじていえん) |
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所在地 | 〒029-4102 岩手県西磐井郡平泉町平泉大沢58 |
アクセス | JR東北本線「平泉駅」より徒歩約10分 |
開園時間 | 3月5日~11月4日:8時30分~17時 11月5日~3月4日:8時30分~16時30分 |
休園日 | 年中無休 |
料 金 | 大人:500円、高校生:300円、小中学生100円 |