
<解説>
長崎県五島市に伝わる「嵯峨島(さがのしま)オーモンデー」は、国選択無形文化財、長崎県無形民俗文化財に指定されている念仏踊りです。嵯峨島は、五島列島の福江島の西端・三井楽(みいらく)町のさらに西方へ4キロメートル程、先にある小さな島。隠れキリシタンが身を潜めた島と言われています。
嵯峨島オーモンデーは、五島市(旧福江地区)を中心に伝わる「チャンココ」と同形の古い念仏踊りと考えられており、嵯峨島が孤島であるため、他の踊りやしきたりに影響されることなく、原型に近いまま保存されたようです。その由来は古くまで遡り、春先に南風を利用して交易のためにやって来た南の国の人たちが伝えたとの説が有力。彼らは盆北の吹く頃に南の国に帰って行くのですが、日本で滞在中に亡くなった仲間の霊を供養して舞ったものと言われています。
構成は鉦(かね)たたきの2人が2組、踊り手が10~12人。半袖シャツに黄色の短い腰布(カネ方は赤色)を巻き、舞葺(まいぶき)の葉で編んだ蓑を腰に付け、金銀5色の色紙で作った派手な兜をかぶり、犬の毛皮で張った長胴桶の太鼓を首にかけて前に抱き、両手にバチを持って踊ります。踊り手が身に着けている兜と腰蓑の「まえぶり」は自作のもの。全員裸足の踊り手は、カネと唱詞に合わせて円形になって踊ります。まるでスイスのヨーデルのような裏声で唱える唱詞と、力強い掛け声と太鼓の音が調和し、ダイナミックなスケール感があります。カネ叩きが何度も繰り返される「オーモンデー」の合唱と、南方系にルーツを感じさせるエキゾチックな装い、そして中央アジア風の手振りが相まって、とても神秘的。
8月14日の昼は、初盆の各家を訪問して先達が仏前でお経を唱えたあとに踊り、夕暮れには墓場で演じます。この珍しくも貴重な踊りを後世に残そうと、1957(昭和32)年に嵯峨島オーモンデー保存会が発足しました。現在、会員は20名程で、若者へと伝統文化を伝え続けています。

