
<解説>
秋田県鹿角市では、春彼岸になると各地で伝統行事「オジナオバナ」が行なわれます。由来について詳しいことは分かっていませんが、江戸時代から続いており、彼岸行事の「祖霊迎え」とされています。先祖はすぐ近くの裏山辺りに住んでいて、下山してはお守りしてくれると古くから信じられてきました。この祖霊たち、つまり「オジナオバナ」に心ばかりのお礼にと、春彼岸の夕刻に墓地や広場などにかがり火を焚いてお迎えし、唱え言葉を唱えて感謝し、手作りの彼岸団子を差し上げるのが慣しです。
八幡平の小豆沢地区のオジナオバナは大掛かりで、かがり火の材料となる「茅(かや)」を前年の11月に刈ることから始まります。刈られた茅で「シマ(島)」と呼ばれる茅束を作り、1基のシマはひとつの月を意味します。翌年の旧暦の月数に合わせて作るため、閏年なら13、そうでない場合は12基作ります。
五ノ宮嶽の中腹に鎮座する薬師神社からやや下がった尾根筋に、上の方から1月、2月と数え、10数メートル間隔でシマを並べて越冬します。春彼岸の最終日に薬師神社でお詣りし、19時になると一斉にシマに点火します。10メートル以上もの火の粉を散らしながら天高く燃え上がるシマの前で、「オジナオバナ 明かりの宵に ダンゴ背負って 行っとらえ行っとらえ」と全員で唱和し、麓の人々も山に向かって祖霊に感謝し豊作を祈り、燃え具合によってそれぞれの月の天候を占います。この行事が終わると、小豆沢に春の足音が聞こえてきます。
