
<解説>
大阪府堺市にある石津太神社は、17世紀中頃に建てられた北本殿・南本殿をはじめ、拝殿・一の鳥居・二の鳥居を持ち、それぞれ堺市の有形文化財に指定されています。北本殿は流造(ながれづくり)、南本殿は春日造(かすがづくり)と形式を変えていますが、破風(はふ)などの装飾で正面から見ると全く同じ形に見えるから不思議です。2殿とも現存している上、拝殿には2棟の本殿に合わせて「馬道(めどう)」という通路が2つあるのは非常に珍しいこと。市の貴重な文化財として、そして地元の人々の拠り所として現在も大切にされています。
この石津太神社の祭り「やっさいほっさい」は、毎年12月14日に行なわれる火渡り神事。この地はもともと浜辺で、漂着した「蛭子命(ひるのみこと)」、別名「戎大神(えびすおおかみ)」を村人が助け上げ、火を焚いて温めたと言う故事に基づいて行なわれるようになりました。
氏子らが願いごとを紙に書いて神木に貼り、それを積み上げた「とんと」を組み上げ、そこへ神職が火を点け、燃えて倒れた方角で吉凶を占います。東だと豊穣、西だと豊漁になるという言い伝えがあります。とんとが焼け落ちると竹で火をならし、神職が火伏神事にて火渡りの無事を祈ります。村人の中から選ばれた「戎(えびす)さん」が男衆に担ぎ上げられ、いよいよ火渡り神事へ。「やっさい ほっさい」の掛け声と共に火渡りを行ないますが、まだ火の粉が上がっている中を3回も駆け抜けるその姿は圧巻です。戎さんの火渡りが終わると、一般参拝客も火渡りをし、煩悩を祓って無病息災をお祈りします。
燃えたあとの灰や燃え殻は厄除になると伝えられ、参拝者は持ち帰るそうです。エビス信仰と修験道が融合した特殊な内容は、まさに「泉州の奇祭」。民俗文化財の価値が大変高いと評価され、堺市の無形民俗文化財に指定されました。

